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「・・・何の臭い?」 今朝起きてきたときから、家の中にかすかに漂う何かの臭い。 今までかいだことはない・・・いや、あった。 どこで嗅いだのだろうとイルミは首を軽く傾げて記憶の中を探る。 この臭いそのものではない、何か別のもので隠されていたような気がする。 そこまでは思い出せたが、続きはまったく進まない。 軽く首を振って思考を目の前のパソコンに戻す。 横に置かれたコーヒーカップの中身はとうにさめている。一口含む。不味い。 画面上にはいくつかの殺しの依頼。家族から回されてきたものもあれば、イルミ独自への依頼もある。 自分でなくても構わないもの、あまりに遠方からのものを除く。某ピエロからの依頼は内容すら確認していない。 日帰りでいける範囲、あまり血を流すことなく針一本を差し込むだけですむ仕事を選び出す。 あの一件以降、余計な客人がこの家に押し寄せてきたことは一度もない。 庭の罠は新たにしつらえなおして精度を上げた。 同時にイルミはなるべく家を空けないように勤めた。 家族からは不審がられていると叔父のアルファから伝え聞いた。 最低限な数の仕事はこなしているからか、直接はまだ言ってこないが、息子の行動をいぶかしんでいるのは当然だろう。 それでも――― 「あ、あの師匠? 買い物に行きたいんですけど」 またしても思考の淵に入りかけていたイルミの意識を引き戻したのは弟子の声だった。 という名の少女は本人曰く異世界人であり、つまりこの世界に属すものではないといったり、やけに念に対する予備知識があったりするが、外見上はいたって平凡な、血に怯える、どこにでもいそうな少女であった。 おそらく何も知らずに道端で出会って言葉を交わしたとしても数分後には忘れ去ってしまいそうな、その程度の存在感しか持っていない少女だ。 しかし何の因果か、イルミとは不可思議な出会いをし、師弟の関係を結ぶことになった。 半袖のTシャツから除く腕にはいつもすり傷やらあざが絶えない。 面白そうだったから。 拾った当初はそう思っていた。思い込もうとしていた。 でも今、何で自分はここまでに構うのだろうと考えてみると答えは出てこない。 面白そうだったから。 冗談じゃない、どこかのピエロじゃあるまいし。 (俺は快楽主義じゃない、のに) 「・・・なんで」 「な、なんでってそりゃ色々と入用なものがあるからで」 「あぁ、なんか足りないものでもあった? いいよ、俺が行くから」 「いやあの」 妙に渋る、普段は容赦なく醤油やらトイレットペーパーやらのお使いを要求する弟子に内心疑問を覚えながら買い物リストを聞き出す。 それでもなお渋るに少し首を傾げて再度問いかければ、真っ赤になってどもりながらもひとつの単語を呟く。 素直に話さない少女に少しばかりの苛立ちを覚えつつ、イルミはそのままの身軽な格好で家を出た。 (あぁそうだ、絆創膏きれてたっけ) 「・・・いってらっしゃい」 「うん、いってきます」 再度の見送りを背に受けて、イルミは再度買い物に出た。 一度目で買った布はどうやら違ったらしい。しかもにはものすごくあきれられた、らしい。 少し面白くない感情を抱えつつ、イルミは通いなれたバーの扉に手をかけた。 「すいません、まだ準備中で・・・って、イルミじゃないか」 「アルファ叔父さん、ちょっといい?」 真昼間からやってきた甥っ子の姿を目にすると、アルファはグラスを拭く手を止めてイルミに座るように促す。 しかし当の甥っ子は直ぐ済むからと言いながら単刀直入に本題を切り出した。 「ねぇ、『ナプキン』って何?」 「・・・・・・・・・は?」 思わず固まった。グラスを拭いていたら確実に落としていただろう。 幸いなことに丁度ひとつ拭き終わったところで、掃除を終えたばかりの床上にガラスの破片が散らばることはなかった。 「ちょ、ちょっと・・・イル?」 「なんかさ、布買ってったら違う『ナプキン』だって、が」 「待て待て、ちょっと待て」 「うん」 思わずイルミの肩を掴むと、口調だけは素直な返事が返ってきた。 「ナ、『ナプキン』? あの?」 「いや、だからアノって言われても俺わかんないんだってば」 だから叔父さんに聞きにきたのに。 そうかすかにすねたような口調で文句を言う甥に、アルファは頭を抱えるしかなかった。 兄さん、義姉さん、教育間違ってます。今度電話するときにはそう言ってやろうとアルファは心中決心した。 「・・・・・・お前がこの間拾った子って、女の子・・・だったわけ?」 「うん、そうだけど」 「・・・・・・・・・ソーユウ年齢の女の子と、一つ屋根の下、ね」 「ソーユウ年齢?」 「・・・年頃の女の子なんだろ」 「んー、10歳くらい?」 あーその年齢ならまだいやいや、とぶつぶつ呟くアルファに再度イルミが問いかける。 「で、知ってるなら教えてよ」 「・・・・・・・・・薬局、でなら売ってるんじゃないか?」 全然分かっちゃいないよな。 アルファはやっとの思いでそれだけを世間知らずの甥っ子に返した。 あっはっは。 イヤだよ、久しぶりの更新がこんなだなんて・・・(汗) っていうか、意味通じてる・・・といいなー分かんなくても聞かないで・・・。 |