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草木も眠る丑三つ時。 っていつごろのことでしたっけ? 現代社会の日本では夜中っていったって電気は煌々とついていたし、人だって眠っていたりなかったり。我が家は寝る派だったけど。 演技派女優として最近人気を確立しつつある姉さんはすることがなければさっさと寝る派。「寝れるときに寝なきゃ」っていつも言ってた。まじめにサラリーマンやってる兄さんも、接待とかで遅くなるときはあれども夜更かしはしないお嫁さん募集中24歳。しがない高校生のわたしはテスト前の徹夜以外は比較的規則正しい毎日で。 いや、こんなことで現実逃避しても痛みはまったく消えないわけで。 「地味に、いたい」 今夜もわたしは筋肉痛との無駄な闘いを強いられているわけです。ハイ。 特に今夜はいっそう酷く痛む。 筋肉痛。 原因は、と自問自答するまでもない。明らかに昼間の、イルミさんのスパルタ猛特訓が原因だ。 発症して後、おかげさまで、異世界にきてしまった心細さとかホームシックとかで枕を濡らすこともないし、年頃の男女がひとつ屋根の下という状況にうろたえることもない。・・・まぁ、アレだけスパルタされたら100年の恋も冷めるんじゃないかと。 と、まあとにもかくにも。 筋肉痛のおかげで満足に眠れないのです。 「・・・シャワーでも浴びるか」 温めると、痛みが和らぐとか聞いたことがある気がする。 えーい、この際眉唾でも気休めでもどうでもいい。 折りよくと言うべきか、家主であるイルミさんは夕方に交わされた「俺ちょっと夜出かけるから」「はいわかりましたー」の会話を忠実に実行したらしく留守で、深夜の騒音云々を気にかける必要はない。 別にイルミさんが原因なんだからと思っていても、そこはそれ。 あの人やけに理不尽だから。 「やっぱお坊ちゃまだからかねぇ」 とても本人を目の前にしては口に出せないだろう台詞を口にしながら、わたしはお風呂セットを手に、与えられた自室を出た。 その、瞬間。 わたしの口にハンカチが。 薄れていく意識の中、妙な薬品臭さだけがなぜかはっきりと感じられた。 そして目覚めるのもやっぱり筋肉の鈍い痛み。 おのれ筋肉痛。 恨んでいいのか感謝すればいいのか、この展開では解りかねますが。 なんだかあまりにもあまりな状況なので、もう慌てる気がしない。 蛍光灯に照らされたダイニングを、ゆっくりと見渡す。 そういえば。 わたしって、周りが盛り上がると逆に冷静になるタイプだった、とやっぱり冷静に自己評価を下す。 (べっつに、盛り上がってるわけでもないみたいですけど) わたしがいるのはソファーの上。横たわっているというよりは、縛られて転がされている感じ。 目の前には黒、というよりも濃紺を基調とした後姿。その数4人。 わたしに背を向けたまま、何やらひそひそと小声で相談中です。 こう、見張りとか必要なんじゃないかなぁと、捕らえられている立場としては思うんですけどね。 でもどちらにしろ動けそうもない。 手足は左右を一緒くたにきつく縛ってあるし、猿轡も噛まされている。・・・きつい。 というわけで、おとなしくしていようかと思います。 イルミさん、必ず助けてくださいね。 下手をしたらあっさり見捨てそうな師匠に向けて、わたしはそっと念をかけた。 ・・・さむぅ。 夏とはいえど、高原の夜は寒い。寒いったら寒い。 シャワーを浴びたらまたすぐベットに戻るつもりでいたから上着も何も着ていない。イルミさんが適当に買ってきた、可愛いといえば可愛い、でもまったく趣味じゃないデザインのパジャマのみ。 これは何だ、イルミさんの趣味なのかとかそういう疑問はとりあえず一時放っておくとして、当たり前に、防寒着としては役に立たない。 たぶんわたしの意識が戻ってから、1時間もたっていないと思う。私の感覚なんて当てにならないだろうけど。 そろそろ寒さも限界になってきた頃、男たちが音も立てずに静かに動き始めた。 ひとりはダイニングを出て玄関のほうへ、もうひとりが廊下に続くドアの影。 ダイニングの中央にひとりと、最後がわたしのソファーのすぐ横。 それから一分もしない間に。 まずひとり、ドアのところの男がひとり、倒れた。 中央の男がそれに反応して、ドアのほうに銃を向けるが、あっさりと後ろを取られまたも崩れ落ちる。 「おそいよ」 その声が響いて、わたしの脳までたどり着いてやっと。 わたしにもイルミさんの姿が認識できた。 こんなにもわずかの間に2人(玄関に向かったのを入れると3人)もの武装した男を倒したというのに、息どころかその長い黒髪の一筋すら乱してはいない長身の影。 イルミ・ゾルディック。 安心したわたしが見上げた先にある彼の表情は。 冷たい目を、していた。 筋肉痛祭。 ちなみに藤森が今現在病んでいるのは肩こり腰痛ひざの痛み。 ・・・えーと、何歳だったっけ、自分。 ちなみに変換ありません。ごめんなさい(汗)。 |